Lesson2-3 農薬について

農薬とは何か

これまで、有機農業は無農薬であると述べてきました。
ここではそもそも「農薬」とは何を示すのか、その定義や基礎知識について解説します。

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農業に使用される、殺虫剤・除草剤・抗菌剤農薬と呼びます。農業の一大産業化や大規模化、また人口増加に伴い、農作物は安価に栽培できること、大量に収穫できることが重視されてきました。その中で大きな役割を担ってきたのが、これらの農薬です。

農薬は、栽培の天敵となる植物や虫を駆除することにより、農作業を格段に楽にしました。この発展により、私達は毎日農作物を安定して安価に手に入れることができるのですが、生き物を殺す農薬が人間にとって好ましいものではない、ということは説明せずとも何となく理解できますよね。

綺麗で安い農作物には理由がある

かつては農薬に頼り、農作物の大量生産を実現してきた政府ですが、近年では農薬にも規制を設け、環境にも人間にもやさしい、エコロジーな農業を推進する動きが見られる様になりました。また、有機農産物の生産も少しずつ増加傾向にありますが、現状ではスーパー等で売られる農産物のほとんどに農薬が使用されている状態です。

毎日の食材を、きれいで安く、そして安定して提供している場所では、安心して食べられる有機野菜は実は入手しづらいのが現状です。

 農薬の歴史

 天敵虫との戦いの歴史と奇跡の薬

人類の農業の歴史は、天候と農作物を食らう虫との戦いの歴史といっても過言ではありません。人間が力を及ぼせない天候とは異なり、対策が可能な虫への対策は昔から色々な工夫がされてきました。

農薬が使われ始めたのは19世紀に入ってからです。農薬は昔から今のように悪者扱いされていたわけではありません。当時は農作物の大量生産を可能にし、食糧難から人々を救う、貴重な存在として重宝されていたのです。

しかし人体への影響が問題視され、1971年に農薬取締法が改正されました。これにより毒性が強い農薬は姿を消しましたが、生産の効率性を高める為に使い続けた農家もありました。その状況を打破すべく同年、日本有機農業研究所が設立され、昔ながらの自然な農法が復活の兆しを見せたのです。

 農薬の恐ろしさ

①長期間体に残る危険性

農薬と聞くと怖いイメージがありますが、実際には何が問題なのでしょうか。

農薬の恐ろしさは、一度体内に取り込むと排毒され難いことです。

北里大学医学部眼科学の研究で、農薬フェニトロチオンをウサギに投与し、血液、皮膚、視神経、大脳などの組織に残留する農薬を70日間測定したというデータがあります。その結果によると、70日経過しても全ての組織に農薬が残留していました。血液中には減少していても、皮膚、視神経、大脳、座骨神経、小脳などに高濃度のフェニトロチオンが残っていたのです。

この実験は1回だけ農薬を投薬した後の経過です。もし微量だとしても農薬が残留している食べ物や飲み物を毎日摂取し続けたら・・・どのような結果になるのか考えてみましょう。

②残留農薬の影響

農薬を使用して栽培された農産物に残る農薬を、残留農薬と呼びます。残留農薬は人や家畜の口に入ることで健康被害を起こす危険性があります。

残留農薬基準

農薬の害は、主に神経系統への障害が多く報告されており、その農薬を一生涯毎日摂取しても危険を及ぼさないと見なされる許容1日摂取量(体重1kg当たり)が農薬残留基準として定められています。

農薬取締法や食品衛生法の改定により、残留農薬基準を超える農産物は規制されていますが、安全とは言い切れません。全ての食品の残留農薬が検査されるわけではないからです。農薬の使用方法を守っていない農家が存在する可能性も、悲しいですがあるのが事実なのです。

特に注意すべきは、皮を剥かない果物や野菜

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皮を剥かずにそのまま食べる農産物の残留農薬には、得に注意が必要です。

イチゴは果実の残留農薬基準値が適用されますが、他の果実と異なり農薬を遮る皮がないので農薬の残留量が多くなると言われています。イチゴは病害虫に弱い作物であり、病気予防の為20回~40回農薬散布され、収穫前日まで農薬の散布が許可されています。

イチゴに散布される農薬には、排卵障害の原因となる成分「1,2-ジクロロプロパン」を含むDDや、化学兵器禁止法の対象薬剤である、クロルピクリンなどが使用されます。得にイチゴのヘタと表面のツブツブの種の形状が残留農薬を増加させているとも言われています。

水洗いで除去できる残留農薬は40~50%ですが、食べるときは出来るだけきれいに洗う農薬を助教する食品用洗剤を使用する事などが残留農薬から身を守る為には必要です。

ネオニコチノイド系農薬

危険性が高い有機リン系農薬の代替えとして、1990年代から多用されているネオニコチノイド系の農薬があります。果物や野菜の栽培に殺虫目的で使用されており、使用量を少量に抑えられるので特別栽培の農産物にも使用されています。

家庭で使う殺虫剤や塩アリ駆除、森林や公園の松枯れ防止に使用されており、身近で使われている頻度が高い農薬です。ネオニコチノイド系農薬には大きく下記3つの危険性が指摘されています。

  1.  生き物〈人間も含む〉の神経の正常な働きをかく乱する
  2. 水溶性で農作物に吸収される為洗っても落ちず、残留性が高い
  3.  土の中に長期残留する場合がある

働き蜂の大量死

1990年代ヨーロッパで働き蜂が大量死し、蜂群崩壊症候群と呼ばれる現象が起こりましたが、この直接的な原因としてネオニコチノイド系農薬の害が挙げられています。農産物の受粉を助けるミツバチの消滅が、農業へ悪影響を及ぼすことは明らかです。

土壌や河川の汚染

ネオニコチノイド系農薬が持つ水溶性と残留性の性質は土壌や河川を汚染し、生態系を破壊するという指摘もあります。

農薬の基準値

国により違いが大きい農薬への対応

フランス政府は2006年にネオニコチノイド系農薬系農薬の一部規制を始め、2018年までに農薬使用量を半減すると目標を掲げています。

一方日本国内では、危険性は問題視されることはなく、ネオニコチノイド系農薬の出荷量は年々増加しており、対策は遅れているのが現状です。少ない量で高い殺虫効果が得られるネオニコチノイド系農薬は、作業効率の向上の為に使用量が増え続けているのです。

使用量が少ないことが低毒であることとは言い切れません。日本の残留農薬基準値は、欧米に比べて規制が緩いこともあり、市販される農産物への農薬の影響が心配されます。

残留農薬基準値のまやかし

上でも学習しましたが、日本には残留農薬基準値というものが設定されており、農作物はこの基準値の値以内であれば、農薬が残留していても出荷、販売することができます。

さてこの基準値、検出された量が値以下なら安全だと思われますか?

基準値=安全な値ではない

農薬や食品添加物の基準値は、安全な値であると勘違いしてはいけません。これらの基準値は発ガン性や催奇形性などの毒性調査に基づいたものであり、頭痛や疲労感、アレルギー反応に関しての影響は実は詳しく調査されていません。

実験に使われるのはもちろん人間ではなくネズミやモルモットです。このような動物は、頭痛や疲れを感じたとしても、「頭がいたい」「体がだるい」などと訴えることはできません。

組織や機関により基準値が異なる

行政や研究機関が示す基準値を信頼すべきでない理由として、組織や機関によって基準値が大幅に異なるという事実があります。同じ機関の基準値でも年ごとに変わる場合もあり、調査研究のあり方に疑問が残ります。

例えば、最も強いダイオキシン「2,3,7,8-ダイオキシン」の発ガン性に関する評価は大きく異なります。EPA(アメリカ環境保護局)では、1日体重1キログラム当たりの許容摂取量を6ピコグラムと設定しているのに対し、FDA(日本の食品医薬品局)は1万2000ピコグラムとしています。FDAの基準値はなんとEPAの2000倍も多い基準値ということになります。

組織や機関により基準値が大幅に違うということが、何を基準として農薬基準値を決めているのかという消費者へ疑問を残す形となっています。