Lesson1-2 オーガニックの歴史① ー 欧州

オーガニックのはじまり

ここでは、オーガニックの歴史について、学んでいきます。

「オーガニック」「有機栽培」と聞くと、あたかも近代で発明された新たな農法のように捉えられることもありますが、よくよく考えてみると、私たちが「栽培」を営み始めたはるか昔から、それはオーガニックであり、有機栽培であったのです。逆に、化学肥料を使用するようになったのが、最近のことで、新たな農法なのです。

それでは、なぜ化学肥料を使用し安定的な生産を得た現在、原点回帰とも言えるオーガニック、有機栽培が再注目されているのかを、欧州・アメリカの動きを見ながら、日本の歴史にも触れていきます。

 

欧州におけるオーガニックの高まり

現在の欧州におけるオーガニック市場の位置づけとしては、世界的な不景気を招いた2008年のリーマンショック以降も、平均して年率約10%弱の成長を見せ、欧州全体でオーガニック市場の広がり・高まりを見せています。このような欧州での広がりは、消費者の食品の安全性や環境問題への消費者の高い意識に支えられているのです。

シュタイナー農法

欧州でのオーガニックへの高まりは、有名な教育者であると同時に、農業にも注力していたルドルフ・シュタイナー(1861-1925)の教えが、有機農業の発展に大きく寄与したことに起源していると言われています。

そのシュタイナーが提唱した農法は「バイオダイナミック農法」、通称「シュタイナー農法」と呼ばれ、現在でもこの農法を取り入れている農家も多いようです。

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思想家でもあったシュタイナーは、「理想的な農業はそれ自身で完成した一つの個体であるべき」という思想に基づき、生命循環・生態系の外部から肥料を施すこと(鉱物・化学肥料や農薬)を良しとせず、その農場が一つの生態系と考え、その中での有機物の循環やその生命システムを理想としていました。当時、盛んに使用されていた鉱物性肥料はお金で買わなければ手に入りませんでしたが、生態系の循環として、自然界に存在するものを活用する彼の農法は、一定の支持を受けました。そんな彼が、亡くなる前年の1924年ドイツはコーバーヴィッツにて行った講演「コーバーヴィッツ農業講座」により、その思想・農法が一層の広がりを見せることになりました。

このシュタイナー農法は、これまでの鉱物性肥料を中心とした農法や、「人間中心」であった農業に変革をもたらすものでしたが、農場の中だけでその生命循環を簡潔させる考え方には、閉鎖性や排他性が存在し、完璧に実践するのは難しい一面がありました。また、戦中のナチス政権下(1933-1945)においては、生産性の低さから公的な農法実践は禁止されていましたが、一部支持者による実践・研究が水面下で進められていたと言われています。

化学農業の加速

1940年代では、第二次世界大戦が終焉に向かう頃、欧州では食糧難に陥っていた地域もありました。それをきっかけに、生産性を重視した化学農業が一気に加速していくことになります。その中でも特に深刻な食糧難に陥ったイギリス政府は、1947年に各農家に農作物買取保証を設定し、農地拡大・食料増産を強力に推し進めます。その後、1958年には、現在にも続く「共通農業政策(Common Agricultural Policy=CAP)」が欧州経済共同体(EEC)で制定され、加盟国で食料自給率の向上、農家・消費者保護を目的とした制度が展開されていきました。

当時、欧州各国では農地拡大・食料増産のために、化学肥料や農薬を大量に用いた農業を拡大しましたが、その化学物質により地下が汚染され、現在のEUの基準である硝酸態窒素の上限値 50ppmを上回る地域も増加してきていました。また、過剰生産により食料余剰も起こり、食料自給率は拡大したものの、これらの問題が注目を集め始めることとなりました。

持続可能な農業へ

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このような問題への反省から、欧州では「持続可能な環境保全型農業」つまり有機農業へシフトする動きを見せ始めます。そこで、欧州共同体(EC)では、1985年にグリーンペーパー(共通農業政策の展望)を発表し、生産拡大志向の強いCAPに対して、「環境への配慮の取り組み」を農家保護要件として追加し、環境保全への道に転換していくこととなりました。

現在では、そのオーガニック市場も拡大しており、欧州全体でのオーガニック農地面積では、2012年には、1,117万ヘクタール(当時EU圏内では999 万ヘクタール)であり、農地全体の約2.3%を占めています。これは2003年の約630万ヘクタールに比べ、約2倍の数字となっています。

また、欧州におけるオーガニック食品の売上総額(227 億ユーロ(3.2 兆円))は、世界第 1 位の米国 と並んで大きな市場となっており、その伸び率は、経済危機の影響を受けている国もある中で、前年比約6%の伸びがあり、その注目度は高まり続けています。