オーガニック農業について
これまで、オーガニックの定義やその広まり・人物について説明してきましたが、ここからは実際にオーガニック食材を栽培する農業について説明していきます。
有機JAS規定の中のオーガニック農業
オーガニック農業は、有機農業と訳されますが、有機JASに定められている定義を紹介します。
(目的)
第一条 この企画は有機農作物の生産の方法についての基準などを定めることを目的とする。
(有機農産物の生産の原則)
第二条 有機農産物は、次のいずれに従い生産することとする。
(1)農業の自然循環機能の維持増進を図るため、化学的に合成された肥料および農薬の使用をさけることを基本として、土壌の性質に由来する農地の生産力(きのこ類の生産にあっては農林産物に由来する生産力を含む)を発揮させるとともに、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培管理方法を採用した場において生産すること。
(2)採取場(自生している農産物を採集する場所をいう。以下同じ。)において、採取場の生態系の維持に支障を生じない方法により採取すること。
引用:有機農産物の日本農林規格
規定の中では、「自然循環機能の維持増進」「環境への負荷軽減」「生態系の維持」など、オーガニック・有機農業の本来の目的が規定の中で謳われています。また、条文はこの後も続き、第一条、第二条を満たすために何を使用すべき・使用してはならないということが記載されており、一般の農業と、有機農業の区分を明確にされていることが分かります。
有機農業の基礎
定義だけではなく、有機農業では実際にどのように野菜作りをしているのか、具体的な有機農業のポイントを解説していきます。
ポイント1 覚悟
有機農業、つまりは無農薬・無化学肥料であるには、まずはそれをやりきる覚悟が必要となります。無農薬なので、害虫・病気がいつでもやってこれます。それを防ぐ手立てとしては、「観る」ことをできる限り毎日続けなければなりません。防虫ネットを張っていても、彼らは少しの隙間があれば入り込んできます。そして、虫が入ってきた途端、そこは外界から保護された食料豊富な状態になってしまいますので、日々が戦いとなります。
また病気対策のためにも、作物の生育状況をこまめに確認し、次にどのような作業をすればよいのかを把握しなければなりません。対応が後回しにならないように、しっかりと「観る」必要があります。
そのような覚悟をまずはしっかりと持つことが重要です。
ポイント2 土づくり
有機農業でもっとも大事だと言われるのが、「土づくり」です。有機物を十分に使用し、土壌生物が住みやすい環境にすることが大切です。土壌生物を増やし、良好な土壌環境にしてくことを「育土」と呼びます。そして、その土壌生物が有機物を分解して糞をすることで、その土壌は植物が育ちやすい団粒構造となり、より良い土壌環境となるのです。
①天地返し
まずは栽培する土地が決まれば、天地返しをします。天地返しとは、表層土と深層土(深い層の病原菌が少ない土)とを入れ替えることを指します。この作業に伴い、表層部分にある雑草の種や害虫と、深層部分が入れ替わり、土がリフレッシュすることになります。
②有機質堆肥の投入
天地返しで入れ替えた土壌に対して、有機質堆肥を投入します。有機質堆肥には生ごみ処理の搾りかすやホームセンターで売られている牛・豚・鶏の糞、バーク堆肥などがあります。有機質堆肥には、植物の成長に必要な養分を十分にバランスよく含んでおり、大きな効果があります。
③酸性度の中和
野菜は、基本的に酸性土壌では生育しません。そこで、植物を栽培する前に、土壌の酸性度を中和する必要があります。それには、草木灰や貝殻粉末など、有機石灰で中和するのです。自家製で草木灰をつくる場合は、乾いた木の枝や雑草などを燃やし、完全に燃え尽きる前に、炭化状態で回収します。それらを瓶に入れて蓋をして置き、後日、異物を取り除けば完成です。
④元肥を入れる
土壌ができてきたら、植物を栽培する前に「元肥」を入れます。元肥として最適なのが「ボカシ肥料」です。ボカシ肥料とは、肥料の効き目を穏やかにするという意味合いがあり、素材としては有機質肥料を発酵させたものです。原料には米ぬか・油粕・魚粉・骨粉などを配合・発酵させて作ります。この中に住む微生物が堆肥を分解し、土壌を団粒構造にしていくのです。
この①~④までを実施すれば、一通り、有機農業の基礎となる土づくりは終わりです。以上からも分かる通り、化学肥料を使用せず、有機質堆肥をふんだんに使い、土壌を仕上げていきます。
ポイント3 虫・病気との闘い
無農薬で害虫や病気とどう闘うのかが、有機農業における大きな問題点です。その対応としては、そもそも害虫や病気を寄せ付けないことが重要となります。害虫のほとんどが、外から飛来して作物に付着し、食害を受けます。そして、その害虫が卵を産むことで、幼虫が孵化し、食害が続いてしまいます。また弱く育った作物には病気が付きやすくなります。では、どのように害虫や病気を防ぐのか考えてみましょう。
①健全に育てる
まずは、作物に十分な栄養を与え、病気に負けない作物づくりを心がけます。そのためには、よい土壌作りが欠かせません。有機質で健全に育った作物には致命的な病気は感染しづらくなります。ボカシ肥料をしっかり与え、天然の健全な菌を増やし、病原菌に立ち向かえる作物づくりをしましょう。
②被覆材を活用する
ごく一般的な防ぎ方ですが、被覆材(防虫ネット)のトンネルで作物を多い、飛来する害虫から作物を守りましょう。設置するための初期の手間はかかりますが、その後は中に害虫が侵入していないかを確認するだけなので、トータルでみればかなり手間が省けます。
③害虫の天敵を利用する
有機農業が目指す姿の一つに生態系の維持があります。無農薬で作物を育てていると、自然の摂理に基づき、いろいろな生物が生息するようになり、自分の農場でその生態系が垣間見えます。その中には、害虫にとっての天敵も存在し、彼らは我々にとっては益虫となります。
テントウムシはアブラムシを食し、クモやカマキリも害虫を捕食してくれます。また、トカゲやカエル、トンボ、アシナガバチなども、害虫の天敵です。彼らと共存することで、完全なる無農薬に近い有機農業を実現することができると言えるでしょう。
④手作り自然農薬
農薬は何も化学的なものばかりではなく、自然由来の農薬も作ることができます。身近なものでは焼酎や酢、ニンニクや唐辛子などを活用した自然農薬も害虫には有効だと言えます。こうした身の回りのものを利用してつくった自然農薬を時期をみて使っていけば、害虫忌避効果が続き、食害などを防ぐことができます。
いかがでしたか。有機農業では、通常の慣行農業にはない、このような3つのポイントを押さえながら実施するという苦労や楽しみがあります。この手間や手入れを理解することで、オーガニック食品への考え方や見方も大きく変わっていきますよね。
次のセクションでは、より具体的にオーガニックとその他の栽培方法の違いについて解説していきます。

