Lesson2-5 流通できない有機野菜

なぜ、有機野菜の流通量は少ない?

日本の有機栽培の野菜や果物は、一般的な農産物と比較しても価格が高くなっています。さらに、手に入れようと思うと、近くのスーパーには売っていないことが多いですよね。その理由をご存知でしょうか。

もちろん、その理由の一つには、生産量が少ないことがあげられます。有機農家自体の数は現在拡大しているものの、まだまだ少ない状態であること。平成21年度に農林水産省が発表したデータによると、日本の農産物の総量に占めるオーガニック農産物の割合はわずか0.18%です。年度ごとの増加率も0.01%に満たない程のスピードです。

そして、二つ目の理由としては、有機農業が先述した通り、非常に手間のかかるの農業であり、大量生産向きの農法ではないことが挙げられます。従来型農業から有機農業へ移行するのは簡単ではなく、有機農業への理解が足りず、取り組むのが難しいことや、有機JAS認証取得に多大な手間とお金がかかることが原因です。また、大量生産が出来ず手間と労力がかかる割には利益率が低いことも、大きな課題となっています。

また、有機農法への転換期間中に一時的に生産量が減るリスクがあり、生活のことを考えると簡単には踏み出せないのが現実です。さらに農薬を使わないことで害虫発生の原因となり、周りの農家に迷惑がかかってしまう可能性を考え、周囲との関係性を保つために躊躇してしまうという村文化で小規模農業の日本らしい問題もあります。

上記のような理由が流通量を少なくしている原因と言われていますが、本当にそれだけでしょうか。

ここでは、リンゴと人参を例に日本の流通システムの問題点と、それによって農家が負担を被っている現実、私達が有機栽培製品を手に入れにくくなっている理由を学んでいきましょう。そして、消費者は何を選ぶべきなのか、私たちの消費者行動を見直すことも考えていきましょう。

 流通できない有機野菜

 求められているのは熟していないリンゴ

スーパーなどの小売店は熟していないリンゴを求めます。倉庫に保管しやすく、痛みにくい様に、果実は硬くなければならないのです。これにより、手塩にかけて有機栽培された最高品質のリンゴが、「軟らかい」という理由で全品返品されることもあるのです。

ここに、日本の流通システムの問題点があります。

卸売業者の経営者は「お客様の要望を満たす為に品質管理検査をしています」と言うでしょう。ただし、彼らが言う顧客とは消費者ではありません。小売業者が彼らのお客様なのです。消費者が完璧な形をした野菜を求めていなかったとしても、曲がったキュウリや長い人参は輸送用の箱にきれいに収まらず運びにくいのです。

自然な農産物の形を好まないのは、消費者よりもむしろスーパー側だいう指摘もあります。小売業界の利益追求行為が、生産者にとっても消費者にとっても、メリットを生み出さない結果となっている現状があります。

 見た目重視の品質規格

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リンゴの有機栽培では、殺菌剤として大量の硫黄が使われています。有機栽培と言えど、品質管理検査をパスする為には表面に染みがあってはいけないので仕方がないのです。少し変色しているだけで不良品扱いを受け、出荷することができなくなります。

見た目の完璧な美しさを保つには、リンゴが病気に感染しやすい時期に3日、4日おきに農薬の散布が行われます。見栄え重視の食品規格を満たすために、有機農家も許可されている農薬を大量に使用せざるを得ない状況なのです。このようなリンゴは、いくら有機栽培とは言えど、化学物質に敏感な人では口の粘膜が刺激されると言う報告もあります。

現状行われている見栄え重視の品質管理は、農産物の栄養価や安全性とは何の関係もありません。反対に安全性を下げる原因になっているとも言えます。しかし「売れる」ものを作るためにはそうせざるを得ないという矛盾した現実があるのです。

 廃棄

規格に合わない、見栄えの悪い農産物は廃棄されます。品質的に問題はなく、傷もなく、味も良い。それでも形が悪いだけで、食品小売業者の品質規格に合格しないという現実があります。

一般の流通の世界では、生産者と販売店の間に業者が入ります。農家が作った作物は中間業者である卸売業者を経由し、スーパーなど小売業者に卸される仕組みです。
中間業者は、小売業者のガイドラインに沿って商品を選別するため、そのガイドラインに沿わないものは品質には何も問題がなくとも廃棄処分にされます。こうして形が悪く廃棄された作物の代金は生産者には支払われないシステムです。

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手間暇をかけて生産した人参の茎が長すぎると品質管理検査で判明し、茎が無いか、あっても短いものを納入して欲しいと返品されるオーガニック農家はたまりませんよね。人参は自然の産物で形は様々なのが普通です。

しかし見栄えを重視する現状のシステムでは、大量の商品が廃棄されてしまいます。こうして、同じ形の傷や色むらの無い作物を作るために、不要な農薬が使用されていきます。

この不毛なループを断ち切るためために必要なことは、消費者である私達が賢くなり、本物を欲する声を上げること高くても質の良いものを購入するという選択をすることなのです。